2018/11/28
by 吉見 隆洋

 

「デジタル」という言葉の氾濫

「デジタルイノベーション室」「チーフ・デジタル・オフィサー(CDO)」「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」などなど、「デジタル」という言葉は、昨今カッコ良く使われているようです。

しかし、少し冷めた眼で見ると、文脈によって、かなり異なる意味で使われていることに気が付きます。これは、その文脈での対義語を考えると、とてもわかりやすくなります。例えば「デジタルデータを活用してマーケティングを変える」。ここでは、コンピューターで取り扱えない「アナログ情報」が対義語です。一方、「ビジネスをデジタル化して効率を上げる」。こちらは「旧来のやりかた」が対義語となる「最新のテクノロジー」(のようなイメージ)で使われています。

こうした多様な使われ方をする言葉は、聞き手や読み手の解釈の違いを招くため、本当に伝えたいことが曖昧になりがちです。

 

後を絶たない問い「デジタルとは何か?」「何をすればデジタル化なのか?」

「デジタル」は「物質・システムなどの状態を,離散的な数字・文字などの信号によって表現する方法(三省堂 大辞林)」を意味します。ラテン語で「指」を意味する「digitus」から由来しており、指を折って数えることが離散的な表現である、というわけです。多少は広く捉えたとしても「工業的には、状態を示す量を量子化・離散化して処理(取得、蓄積、加工、伝送など)を行う方式(Wikipedia)」程度が、多くの方が共感できる解釈ではないでしょうか。

更に、現代においては、コンピューターの利用が大前提であることを踏まえると、「デジタルとは何か?」という問いには、「(コンピューターで取り扱うための)情報の表現方法」と「(コンピューターで取り扱うための)その情報の処理方式」と答えて良さそうです。

では、何をすれば「デジタル『化』」なのでしょうか?「~化」は「~できるように変わる・変える」ことです。素直に従うなら「コンピューターで取り扱えるように『表現方法を変えること』」と「コンピューターで取り扱う『処理方式に変えること』」となります。乱暴に言えば「コンピューターで表すこと」と「コンピューターで使うこと」という感じです。

「20数年前から、私の担当の購買業務は、全てERPで管理しています。何を今更デジタル化するのでしょうか?」

とはいえ「コンピューターで表すこと」「コンピューターで使うこと」では、昨今の「デジタル化」の使われ方に比べて当り前すぎる感じがします。例えば、既に購買の情報をコンピューター上にデータで入力・蓄積し、コンピューターで業務を処理しているのであれば、デジタル化できていることになります。

にも関わらず「業務のデジタル化を推進する」とは、一体どのような意味で使われているのでしょうか?

「表すこと」と「使うこと」の延長で考えるならば、それは、

  1. 目的に応じた情報の高解像度化
  2. 処理方式の高度化

の、二つであると考えます。

1は、より詳細な情報をコンピューターで取り扱いたい場合などを指します。例えば、これまで一日おきにしか記録できていなかった製造装置の状態を、よりきめ細やかな制御や監視をするために、毎時や毎分、毎秒へと細かくしていく場合などです。

2は、コンピューターで取り扱えるようにしている情報から、更なる付加価値を生み出すために処理を高度にしたい場合を指します。例えば、蓄積した製造装置の故障記録から、将来の故障予測を行い、未然に防止する場合などです。

気をつけたいのは、この二つが各々独立した取り組みではなく、互いに影響しあうということです。情報が高解像度化できたからこそ、処理も高度化できる場合が多く、また、処理を高度化していくと、その目的に応じて情報を更に高解像度化しなければならない場合も多いのです。片方だけに重きを置いた宣伝も世の中では少なくありません。(「ビッグデータ管理」「予防保全」etc)。表面的に捉えてしまうと片手落ちになりがちです。

 

「デジタルの時代」の特徴とは?

ここ数年「デジタル化推進」が声高に叫ばれるようになったのは、先に挙げた「コンピューターで取り扱える情報の高解像度化」「処理の高度化」に必要なコストが極めて下がったことが一因とも言えるのではないでしょうか。デジタルデータの管理(取得や蓄積)コストと処理(加工や伝送)コストは、ハードウェアコストの低下やクラウドサービスの充実などによって、10年前とは比較にならないくらい下がっています。

結果、世界の様々なアナログの情報が、より少ない損失でデータ化されるようになりました。また、地球上の様々な場所で処理ができるようになりました。情報をデジタルデータとして管理するコストが十分に下がる一方で、これまでのような専門知識を持たなくても、高度な処理が行えるようになってきています。

「デジタルの時代」の定義は様々だと考えますが、その特徴の一つは、こう言えそうです ー 「コンピューターによる情報利用コストが十分に下がり、使い勝手(利便性)が上がった時代」、と。

 

「デジタルの時代」の俯瞰、そして、現場の実際

地球上の様々な情報を利用するコストが低下したこと、その利便性が向上したことが、世界中の企業との競争を日本企業に突きつけています。時には、同業種・同業界ではなく異業種の企業が既存ビジネスの大胆な破壊者として参入してきています。大規模なプラットフォーム作りで後塵を拝している日本は、海外プラットフォーム企業との共生を余儀なくされています。顧客の好みはますます多様化し、ありもののみに我慢しなくても良い世界が広がりつつあります。

こうしたマクロな見方の一方で、足元の・現場の・実際の・ミクロな取り組みにおける課題は、泥臭いところにあると見ています。

先に挙げた「情報の高解像度化」と「処理の高度化」の橋渡しは、その一つです。デジタルデータが集まったものの、分析・活用するには様々な前処理が実は必要である、とか、機械学習を自社の業務に適用するには、より詳細なデータが実は必要である、といったことです。美辞麗句で飾った宣伝のお仕着せではなく、課題に応じた解決方法が求められていると感じます。

日本企業が更に伸びていくには「世界との距離」を縮めていく必要があります。多様化する顧客の好みに迅速に対応するには、適切な「組み合わせ」で加速することも一つの手段です。共創やオープンイノベーション、あるいは、戦略的提携などの企業間活動も、その一つでしょう。一方で、課題を正しく設定し、地に足のついた取り組み方で、一歩一歩着実に進めていかなくてはいけません。しかも、考えて試す、だけではなく、その前に「気づいたり」や、その後の「伝えたり・フィードバックしたりする」の早いサイクルが求められています。デザインシンキングやアジャイル開発が、注目を浴びているのは、そのためと考えます。

そのような「デジタルの時代」の様々な挑戦において、お客様が世界との距離を縮める窓口として、様々な要素技術を組み合わせることができるサービス専業ベンダーとして、そして、先進的な手法を取り入れながらも地道な泥臭いアプローチを厭わないパートナーとして、DXCテクノロジー・ジャパンは貢献したいと考えています。

日本発信のこのブログで、様々な取り組みを紹介してまいりますので、是非お付き合いください!

 

About the author

吉見 隆洋(Takahiro Yoshimi)
DXCテクノロジー・ジャパン CTO。製造業向けサービスならびに情報活用を中心に20年以上IT業界に従事。業務分析の他、各種の講演や教育にも携わる。東京大学大学院 工学系研究科 博士課程修了。博士(工学)、PMP

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