2019/01/10
by Sukhi Gill
 

クラウドへの移行は簡単なはずだったのでは?そうであればなぜ多くのIT管理者が、これまでにIT環境の変更プロジェクトを経験していても、クラウドの導入が予想よりもはるかに難しいと感じるのでしょうか?

大きな理由の1つは、クラウドへの移行がこれまでとは違う全く新しい種類の環境の変化をもたらすからです。クラウドはITを大きく変えるだけではありません。ほんの数年前まで想像すらできず、現実的ではないと思われていたようなビジネスモデルまで実現可能にします。

さらに事を複雑にするのは、多くの組織がクラウドへの移行の検討過程で、一部のエンタープライズアプリケーションについてオンプレミスに残しておく方が最適であると認識するようになることです。クラウドに移行する有力候補として考えていたアプリケーションも、クラウドに移行後、ビジネス上の価値を最大化させるためにどの程度までトランスフォーメーションさせるのが適当かを判断したり、クラウドと従来の環境のワークロードをどのように統合すべきかを決めたりする必要があります。端的に言えば、複雑なのです。

そこで、ハイブリッドITに移行するためのベストプラクティスとして参考にしていただきたい6つのステップを紹介します。

  • クラウドへの移行をビジネス全体の意思決定とする。 デジタルトランスフォーメーションは本質的に、ITだけではなく、ビジネス全体の新しい戦略を提供し、プロセスの変革やカスタマーエクスペリエンスの向上など、すべてを新しいビジネスモデルに基づいて実行できるようにします。そのために適切なテクノロジーを導入するのは当然重要ですが、それ以上に、そのテクノロジーがビジネスの要件に合致し、ビジネス全体の向上に繋がる必要があります。テクノロジー管理のアプローチは、ビジネスとITの両方にとって有益なものでなければならないのです。
  • DevOpsを次のレベルに引き上げる。 ハイブリッドクラウド環境への移行とは、運用モデル全体を全く違う視点で見ることを意味します。スマートな組織であれば、DevOps を活用し、市場にあるクラウドサービスを調査して適切なソリューションを導入し、IT運用モデルを変更します。しかし、こうして導入した新しい環境は単に、新しいテクノロジーを活用してこれまでと同じサービスを同じように制御するだけの環境ではありません。驚くほど多くの場面で、「新しいことを新しい方法で」実行する機会が得られるようになります。その一方で、この新しい環境を脅かすリスクも自ずと変わり、コンプライアンスが求められる要件も違ってきます。
  • ワークロードの移行前に、ハードデータを収集する。 アプリケーションによってはパブリッククラウドで最高のパフォーマンスを発揮するものもあれば、プライベートクラウドやオンプレミスに残すことがベストなものもあります。この見極めはどのようにすれば良いのでしょうか? 各アプリケーションが生み出す真のビジネス上の価値に基づいて判断するべきです。パフォーマンスと使用率のデータを比較分析するツールを活用すれば、パブリッククラウドで可能な限り良好な結果が生まれるようにワークロードをマッピングすることができます。他にも、特定のワークロードのパフォーマンスデータを評価することができる便利なツールが存在します。
  • データから価値を引き出す。 創業してから年数が経つ企業には、新興企業にはない大きな強みがあります。長い年月の間に蓄積した貴重なデータを保有していることです。しかしそのデータの価値を生かしたり、高めたりするのは、容易ではない場合があります。特にレガシーシステムに埋もれているデータの場合は厄介です。そのような場合も、ハイブリッド環境でのデータ管理が有効な策となり得ます。レガシーシステムの中には、クラウドに移行しても問題ないものもあれば、オンプレミスに置いておく必要があるものもあります(そのシステムがクラウド環境に統合されていたとしてもです)。要するにインフラストラクチャ、アプリケーション、データをすべて合わせて最適な環境を考える必要があるのです。これをモジュール主体の「今日修正して、明日使用可能にする」アプローチで取り組めば、一口サイズの小さなモジュールで、企業データにより多くの価値をもたらします。
  • 拡張性のあるクラウドモデルを構築する。 ハイブリッドクラウドへの移行を検討する際、レストランのオーナーの視点を取り入れてみましょう。まず、自分のレストランで雇っている「シェフ」たちにレシピ(アーキテクチャのパターン)を考案するように頼みます。次に、そのレシピに基づいて同じパターンを繰り返し数多く作れる「コック」たちにワークロードを移動します。その際、すぐに成果が表れる確実な「人気メニュー」から始めます。そうすることによって、自信が生まれ、経験が増え、初期の成功例を説得力のある数まで積み重ねることができます。注: こうしたタスク(スキル、ノウハウとその拡大)は、ほとんどの組織にとって業務の範囲外であるため、パートナーによる支援が必要になることがあります。
  • ロードマップを定期的に更新する。 どの組織もユニークであるため、ハイブリッドITの実現に向けたロードマップも他と比較できない独自のものにする必要があります。しかし、そのロードマップも、組織がハイブリッドITの実現に向けた歩みを進め、その過程で新しい学びや気づきを得るようになるにつれ、進展状況に応じて更新していく必要があります。特に、クラウドサービスの市場の変化は非常に早いため、常に最新情報を取り入れる必要があります。今日の時点で完璧だと思える計画を立てたとしても、明日になれば新しいサービスが利用可能になり、計画していた多くのことが自動化できるようになっていることがあるからです。

 

単一ソリューションでは不十分

プロセス全体を、単一のテクノロジーをベースに開発したソリューションだけで改善しようとするのはもはや時代遅れです。当時のソリューションは今では検討に値する無数のテクノロジーをベースにした多種多様なソリューションに取って変わられています。そのため、どのテクノロジーの組み合わせが各ユーザー企業のビジネス環境に最も適しているかを判断するには、状況に精通したパートナーを見つけ、的確なアドバイスを求める必要があります。

新しい環境を導入する多くの組織を待ち受けるのは、文化的な変化です。新しい働き方、イノベーションの取り入れ方、開発方法などに戸惑いを感じる時、頼りになるパートナーがいれば、自身のクラウド移行経験や他のクライアントのクラウド移行をサポートした時に得た学びや気づきを共有してもらえます。優れたパートナーは、効果的で革新的でセキュアなハイブリッドIT計画の実現に何が最低限必要になるかを教えてくれます。また、その計画をさらに拡張し、トランスフォーメーションを加速させる新しいプロジェクトの立ち上げや追加ソリューションの導入についても有益なサポートが得られるようになります。

 

About the author

Sukhi Gill
DXC Technologyの副社長、DXCフェロー、UKIIMEAリージョンの最高技術責任者(CTO)を兼任。30年にも及ぶ豊富な経験を活かし、戦略的に展開するテクノロジーとプロセスのイノベーションを通じてクライアント企業が大きな事業上の優位性を得られるよう、各社の経営陣に戦略的なアーキテクチャ構築の方向性についてアドバイスを提供。

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